2042年3月18日の、朝。
丘の上に、人が集まっています。日本から来た人。この国で生まれた人。遠い国から移ってきた家族。みんな、まだ少し眠そうです。
見下ろすと、海のそばに小さな町があります。黒い瓦の屋根。朝もやのかかった棚田。港では、わらで包んだ器の木箱を、船に積んでいます。今日も世界のどこかの店へ届く荷物です。
通りの角の工房から、もう槌の音が聞こえます。日本で一度は店をたたもうとした鍛冶の親方が、この町で三人目の弟子に、刃の叩き方を教えています。隣の染め場では、藍の甕のふたが開きました。
染め場で甕をのぞき込んでいる青年は、日本にいた頃、自分には何もないと思っていました。いまは、この町でいちばん深い藍を出します。指先はいつも青く、それを隠しません。
学校の縁側では、子どもたちが今日どこへ弟子入りに行くかを話しています。市場には、町の畑でとれた野菜と、町の窯で焼いた皿が並びます。
16年前、ここには何もありませんでした。あったのは、一枚の構想書と、「割れたところは、金で継げばいい」と信じた数人だけです。
同じ朝が、世界のあちこちの町で始まっています。砂漠のそばの町でも。雪の谷の町でも。
この朝を、本当に迎えたい。
だから今日、最初の一歩を積んでいます。
