
特許のマルチクレームとは?制限の背景や作成時の注意点を解説
特許のマルチクレームとは?定義と基本概念
特許出願における「マルチクレーム」とは、特許請求の範囲(クレーム)において、2つ以上の異なる請求項を択一的に引用している請求項のことです。例えば、「請求項1または2に記載の装置」というように、複数の先行する請求項を選択肢として指定する記述方法を指します。
マルチクレームを採用することで、同一の技術的特徴を何度も繰り返し書く必要がなくなり、特許請求の範囲の記述を簡潔に整理できるメリットがあります。出願書類のボリュームを抑え、審査官や第三者にとっても読みやすい構成にするための重要なテクニックです。
シングルクレームとの違い
マルチクレームの対義語として「シングルクレーム」があります。シングルクレームは、「請求項1に記載の装置」のように、単一の請求項のみを引用する書き方です。
シングルクレームだけで特許請求の範囲を構成すると、技術の組み合わせごとに独立した請求項を多数作成しなければならず、書類が複雑化し、出願・審査にかかる費用も膨らむ傾向があります。そのため、実務ではマルチクレームを効果的に織り交ぜることが一般的です。
「マルチマルチクレーム」との違いと2023年の法改正
特許実務において極めて重要なのが、マルチクレームと「マルチマルチクレーム」の区別です。マルチマルチクレームとは、「他のマルチクレームを引用しているマルチクレーム」を指します。
日本の特許制度では、審査負担の軽減や国際的な調和を図るため、2023年6月1日以降の出願において「マルチマルチクレーム」の記載が制限されました。これに違反すると拒絶理由の対象となります。単なる「マルチクレーム(他のマルチクレームを引用していないもの)」は現在も認められていますが、マルチマルチクレームは一律で禁止されたため、実務上の書き分けに細心の注意が必要です。制度の正確な詳細については、特許庁の公式ガイドラインを確認することをおすすめします。
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マルチクレームの具体的な書き方と表現パターン
特許請求の範囲を作成する際、マルチクレームは以下のような表現で記述します。代表的な3つのパターンを紹介します。
パターン1:基本的な択一的引用
「【請求項3】請求項1または2に記載の、前記制御部がAIで構成された情報処理システム。」
これは最も標準的なマルチクレームです。請求項1のシステム、または請求項2のシステムのいずれに対しても、追加の特徴(AIで構成された制御部)を適用することを意味します。
パターン2:3つ以上の請求項を引用する場合
「【請求項4】請求項1から3のいずれか一項に記載の、前記筐体がアルミニウム製である電子機器。」
「いずれか一項に記載」という文言を入れることで、択一的な引用であることを明確にします。この表現も、引用元の中にマルチクレームが含まれていなければ、適法なマルチクレームとして受理されます。
パターン3:マルチマルチクレームに該当するNG例
「【請求項3】請求項1または2に記載の、○○を備えた装置。」(これは適法なマルチクレーム)
「【請求項4】請求項1から3のいずれか一項に記載の、さらに△△を備えた装置。」(これはNG)
この場合、請求項4は「請求項3(マルチクレーム)」を引用しているため、マルチマルチクレームとなり拒絶理由を受けます。請求項4を適法にするには、引用元から請求項3を除外し、「請求項1または2に記載の〜」と書き直す必要があります。
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記事づくりを任せる →マルチクレーム・マルチマルチクレーム制限の背景と費用への影響
なぜ、マルチマルチクレームは制限されるようになったのでしょうか。その背景には、特許審査の迅速化と、出願費用の適正化があります。
審査負担の爆発的な増加を防ぐため
マルチマルチクレームを認めると、技術の組み合わせが掛け算式に増加します。例えば、10個の請求項が相互にマルチマルチ引用を行っている場合、実質的な発明の組み合わせパターンは数百通りに達することがあります。これにより、特許庁の審査官が先行技術を調査・判断する負担が極めて重くなっていました。審査の遅延を防ぎ、迅速な権利化を支援するためにこの制限が導入されました。
出願・審査請求費用への影響
特許の出願料や審査請求料は、請求項の数(印紙代の加算)によって変動します。マルチマルチクレームが禁止されたことで、組み合わせを網羅するために請求項の総数自体を増やさざるを得ないケースが出てきます。請求項の数が増えると、特許庁に支払う審査請求料や、特許取得後の登録料(年金)の負担が増加する点に留意が必要です。費用を抑えつつ最大の権利範囲を得るためには、プロである弁理士と連携し、無駄のないクレームツリーを設計することが重要です。
特許出願のステップや費用について詳しく知りたい方は、弊社の「特許出願の基礎知識」に関する個別相談サービスもご活用ください。専門家が最適な権利化プランをご提案します。
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実務で失敗しないための作成手順とチェックリスト
特許出願時にマルチマルチクレームの罠に陥らないための、具体的な作成手順と実務チェックリストを解説します。
ステップ1:クレームツリー(系統図)の作成
頭の中だけでクレームを組み立てると、どの請求項がどれを引用しているか混乱しやすくなります。まずは手元で、請求項の依存関係を矢印で結んだツリー図を作成しましょう。枝分かれした先で、さらに複数の枝が1つに合流するような構造(マルチマルチ)が発生していないかを目視でチェックします。
ステップ2:引用表記の機械的チェック
作成した特許請求の範囲のテキストに対して、以下のキーワードで検索をかけます。
- 「または」
- 「いずれか」
- 「から」
これらの言葉が含まれる請求項をすべて洗い出し、その請求項が「他のマルチクレーム」を引用していないかを1つずつ確認します。
ステップ3:専用の検証ツールの活用
現在、多くの特許事務所や企業の知財部では、マルチマルチクレームを自動で検出するソフトウェアやExcelマクロを導入しています。特許庁が出願ソフト等で提供している検証機能や、民間の知財支援ツールを活用し、出願前にエラーが出ないか機械的にスクリーニングすることをおすすめします。
失敗事例:補正時の見落としによる拒絶理由通知
ある企業が特許出願の審査段階で、拒絶理由を解消するために請求項の「補正」を行いました。その際、請求項の番号を繰り下げたり、引用関係を変更したりした結果、意図せずマルチマルチクレームの関係が成立してしまいました。その結果、本来の拒絶理由は解消したものの、新たに「マルチマルチクレーム制限違反」という形式的な拒絶理由通知を受けてしまい、対応のための追加費用と時間がかかる結果となりました。出願時だけでなく、中間処理(補正)の際にも必ず再チェックが必要です。
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まとめ:適切なクレーム設計でスムーズな権利化を
マルチクレームは、特許請求の範囲をスマートに整理し、審査を円滑に進めるための強力なツールです。しかし、2023年からのマルチマルチクレーム制限により、その作成にはこれまで以上の正確性が求められるようになりました。
自社の発明を漏れなく保護しつつ、形式的なエラーで審査を長引かせないためには、最新の制度に対応したクレーム設計が不可欠です。特許出願の手続きや、自社出願のクレームチェックに不安がある場合は、知財の専門家である弁理士へ事前に相談し、アドバイスを受けることを強く推奨します。
当メディア「知財ナビ」を運営する事務所では、特許出願のサポートやクレーム設計に関するご相談を承っています。知財戦略を強化したい企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
- Q. マルチクレームとマルチマルチクレームの違いは何ですか?
- A. マルチクレームは「複数の単一請求項を引用する請求項」であり、現在も認められています。一方、マルチマルチクレームは「他のマルチクレームを引用しているマルチクレーム」を指し、2023年6月以降の日本の特許出願では一律で禁止(拒絶理由の対象)となっています。
- Q. 海外の特許出願でもマルチマルチクレームは禁止されていますか?
- A. 国によって対応が異なります。米国(アメリカ)では、マルチマルチクレームは原則として認められないか、極めて高額な追加手数料(目安として数十万〜数百ドル規模)が課されるため実務上は避けるのが一般的です。欧州(EPO)では一定の制限のもとで認められていますが、中国や韓国などアジア圏でも制限や追加費用のルールがあるため、現地の最新制度を確認する必要があります。
- Q. マルチマルチクレーム制限に違反して出願してしまった場合はどうなりますか?
- A. 特許庁から「拒絶理由通知」が届きます。この場合、指定された期間内に特許請求の範囲を「補正」し、マルチマルチクレームの関係を解消(シングルクレーム化する、または引用関係を整理する)することで、拒絶理由を解消して審査を継続させることが可能です。



