会社売却の相場算出方法|3つの計算式と実例
会社売却の相場算出方法とは?結論から解説
会社売却の相場は「年買法」「DCF法」「類似会社比較法」という3つの計算手法を組み合わせて算出するのが基本です。それぞれ着目する数値が異なるため、1つの手法だけでは実態とかけ離れた金額になりやすく、複数の手法を併用して相場のレンジを把握することが重要になります。本記事では計算式と具体的な数値例、算出時に起こりやすい失敗例まで解説します。
会社売却の相場を決める3つの代表的な算出方法
1. 年買法(年倍法)
年買法は中小企業のM&Aで最も広く使われる方法です。計算式は「時価純資産+営業利益(または経常利益)×2〜5年分」となります。時価純資産は貸借対照表上の純資産を実勢価格に修正した金額で、不動産や有価証券の含み損益、回収不能な売掛金などを調整して算出します。
年倍法で使う「年数」は業界の成長性や事業の再現性によって変動し、飲食業や小売業では2.0〜3.0年、ITやコンサルティングなど無形資産中心の業種では4.0〜5.0年程度になるケースが多く見られます。この年数はあくまで交渉の出発点であり、最終的な合意額とは異なる点に注意が必要です。
2. DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)
DCF法は将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法です。事業計画の精度が結果を大きく左右するため、中小企業では計画の信頼性が低いと判断され、参考値としてのみ用いられることが少なくありません。割引率(WACC)の設定次第で評価額が数千万円単位で変動することもあり、専門知識のない状態での自己算出はリスクが高い手法です。
3. 類似会社比較法(マルチプル法)
上場している同業他社のEBITDA倍率やPER(株価収益率)を参考に、対象会社の財務数値へ当てはめて評価額を算出する方法です。例えばEBITDA倍率が3.5倍〜6.8倍のレンジにある業界であれば、自社のEBITDAが8,000万円の場合、評価額はおよそ2.8億円〜5.4億円のレンジになります。ただし上場企業と中小企業では規模や流動性が大きく異なるため、そのまま単純に適用すると相場を過大評価するリスクがあります。
具体的な計算シミュレーション
年間営業利益3,000万円、時価純資産5,000万円の製造業を例に年買法で試算すると、営業利益の3年分(9,000万円)+時価純資産5,000万円で、評価額はおよそ1億4,000万円となります。同じ会社をEBITDA倍率4.0倍で類似会社比較法にあてはめると、EBITDA相当額3,500万円×4.0倍で1億4,000万円前後となり、複数手法の結果が近い水準に収まると交渉の根拠として説得力が増します。逆に手法間で評価額に大きな乖離が出た場合は、前提条件や調整項目を見直す必要があります。
相場算出でよくある失敗例
自己流の計算だけで相場を確信し、想定より大幅に低い金額を提示されて交渉が難航するケースは少なくありません。特に多いのが、簿価純資産をそのまま時価純資産として扱ってしまい、不良在庫や回収困難な売掛金を控除しないまま評価額を過大に見積もる失敗です。また、直近1期の利益が突発的な要因で高かった場合、その数値だけを年買法に当てはめてしまい、買い手側の査定と数千万円単位で差が生じることもあります。相場を算出する際は直近3期分の平均利益を使い、一時的な特別損益は除外して考えることが基本です。
会社売却の相場を左右する要因
算出方法だけでなく、以下のような要素も最終的な売却価格に影響します。
- 経営者への依存度(属人化しているほど評価は下がりやすい)
- 取引先の分散度(特定顧客への依存が高いとリスクとして減点される)
- 業界の将来性や市場規模の伸び
- 許認可・知的財産などの無形資産の有無
- 直近の業績トレンド(成長中か横ばいか)
こうした要素は数式に落とし込みにくいため、買い手企業やM&A仲介会社との交渉の中で加減されるのが一般的です。相場を算出したうえで、こうした定性要因も踏まえた資料を準備しておくと交渉が有利に進みやすくなります。
相場算出を成功させるポイント
自社だけで算出した相場は、あくまで交渉のたたき台と考えるべきです。実際の売却価格は買い手の戦略的意図や市場環境によって上下するため、複数のM&A仲介会社やアドバイザーに簡易査定を依頼し、算出根拠を比較することをおすすめします。専門家に相談する際は、年買法・DCF法・類似会社比較法のどれを根拠にしているかを必ず確認し、根拠が曖昧な高額査定には注意が必要です。承継M&Aナビでは、複数の専門家による査定比較のご相談も受け付けています。
財務諸表の作成基準や税務上の資産評価については、国税庁の公表資料も参考になります。また、中小企業のM&A動向や支援策については中小企業庁が統計や施策情報を公開しているため、あわせて確認しておくと相場感の裏付けになります。
まとめ
会社売却の相場は、年買法・DCF法・類似会社比較法という3つの手法を組み合わせて算出するのが基本です。1つの数値に飛びつくのではなく、複数の手法で試算したレンジを把握したうえで、経営者依存度や取引先の分散度といった定性要因も加味することが重要になります。自己算出だけで最終判断せず、M&A仲介会社や公認会計士など専門家の査定と照らし合わせながら、納得できる売却価格を見極めていきましょう。
よくある質問
- Q. 会社売却の相場は自分で計算できますか?
- A. 年買法であれば時価純資産と営業利益の数値がわかれば概算は可能です。ただし時価純資産の算出には不良資産の調整など専門知識が必要なため、最終的な金額はM&A仲介会社や公認会計士に確認することをおすすめします。
- Q. 年買法とDCF法はどちらを信用すべきですか?
- A. 中小企業のM&Aでは年買法が実務でよく使われますが、将来性の高い事業ではDCF法の評価が参考になることもあります。両方の結果を比較し、乖離が大きい場合は前提条件を見直すことが大切です。
- Q. 相場より高く売却できるケースはありますか?
- A. 特定の買い手にとって戦略的価値が高い場合(顧客基盤や技術、許認可など)は、算出相場を上回る金額で成約することがあります。ただしこれは個別交渉によるものであり、算出方法だけでは予測できない要素です。